「火垂るの墓」の清太といえば、幼い妹の節子を守りながら必死で生きようとする姿がとても印象的ですね。
しかし「火垂るの墓」のレビューのを覗いてみると
「清太がクズすぎる」
「働かないからこうなる」
「無能としかいいようがない」
…これは一体どういうことでしょうか?
今回も早速、火垂るの墓を振り返りながら考察していきたいと思います。
「火垂るの墓」の清太がクズ、無能ってどういうこと!?
空襲によって家をなくした清太たちは西宮に住むおばさんの家でお世話になっていました。
ところが、清太は学校にも行かずに働かない選択をした上、家事を手伝うこともなく、日中はゴロゴロ過ごすか節子と遊んでいたのです。
態度も悪く、食事を出して貰ってもお礼もせずに文句をつける始末…
なるほど。こうなると、クズや無能だと叩かれてもおかしくないかもしれませんね。
おばさんは再三注意したものの、清太は一向に働かずに態度も変わりませんでした。
「火垂るの墓」の中ではおばさんの実娘だって国のために働いていました。
つまり、その当時からすると清太が働かない姿は「まさしく異様」だったのです。
やがておばさんも「働かないのに食事は与えられない」と考え、清太たちの食事は段々と粗末なものになっていきました。
「火垂るの墓」のレビューの中には、おばさんの発言や態度が厳しいといった意見もありますが…彼の体たらくさを考慮すると実は妥当とも考えられるのです。
現に「部屋でゴロゴロしていて働かないクズ」「清太は低スペックの部類で無能」という声も少なくありませんでした。
清太はなぜ働かなかった?「火垂るの墓」で描かれた家庭格差が原因?
清太がクズで無能だと言われる理由はわかりました。
では、なぜ働かない選択をし、クズだと呼ばれてしまう行動を取っていたのか?
清太が働かない理由、それは「節子」が居たからではないでしょうか。
働く間に節子が嫌な思いをするのではないかと考え、働かずに節子と一緒にいることを選んだのだと思います。
また、清太がクズ呼ばわりされるようになった要因は元の家庭環境にもありそうです。
「火垂るの墓」で登場することはありませんが、父親は出兵中の海軍大尉で家庭も裕福。
母親は高価な着物を着ていましたし、遺した遺産はなんと7000円(現在で約1000万)もあり、働かなくても良い環境だったのです。
「火垂るの墓」の他の登場人物たちと比べても清太と節子は身なりも綺麗でしたし、働かなくてもお腹いっぱい食べて何不自由なく暮らしていました。
「火垂るの墓」が描かれた時代では相当裕福な環境ではないでしょうか。
一方、慎ましく暮らしていたおばさんの家では環境が全く異なったため、結果的にクズ認定されたと考察できます。
とは言え、清太は本当に無能だと思いきや、おばさんの家を出てから簡単な料理程度は作れていました。
持病がある母の代わりに節子の世話をしていたので一通りの家事はできたようです。
おばさんの家でもそれを発揮していれば無能よりもマシな地位を得られたのでしょうか…
清太が働かない理由…高畑監督のコメントで明らかに
清太はなぜあえて、生きづらい選択を続けたのか?
働かない選択を止めれば、母が遺してくれたお金を上手く使えていたら、無能呼ばわりされないように家事を手伝っていたら…
清太と節子は生き残れたのではないでしょうか。
それについて「火垂るの墓」を作った高畑勲監督は次のようにコメントしています。
社会生活ぬきの家庭を築きたかった。まわりの大人たちは冷たかったかもしれない。しかし、清太の方も人とのつながりを積極的に求めるどころか、 次々とその機会を捨てていく。
引用元: 1988年5月号アニメージュ
清太が「火垂るの墓」の中でクズ、無能と言われる行動をとったのは全て節子と家庭を作っていくためだったとのこと。
働かない姿勢を貫くことでおばさんとの繋がりを絶ち、新たな社会との繋がりも作らないようにしていたのです。
社会との繋がりを絶ったことによって配給など必要な情報を得ることができず、結果的に最愛の妹である節子を死なせてしまった。
この辺を加味すると、ネット上で言われるような無能説も決して大げさではないのかもしれません。
では、現代人である我々はどうか。
煩わしい社会との繋がりを絶ってPCやスマホ、ゲームなどを使って「自分の世界」に閉じこもる私たちにとっても耳の痛い部分があるのではないでしょうか。
「火垂るの墓」の中で清太をクズや無能と言わしめる行動の数々…
これは、社会との繋がりを絶つと何が起こるのかを示した高畑監督からのメッセージなのかもしれません。
まとめ
ここまで「火垂るの墓」の清太がなぜ働かない選択をしたのか、クズや無能と呼ばれるのかについて考察してきました!
改めて見ると清太の行動は確かにクズと呼ばれても仕方がなく、無能だと感じる部分も少なからずありました。
しかし、自分が清太と同じ立場だったら上手くやっていけるのか。
そう考えると答えに詰まってしまいます。
「火垂るの墓」を通じて得られるメッセージは様々。そう考えるとまた作品が観たくなってきました。